中国の歴史とセサミン
ガン予防や高血圧予防など、多くの効能で知られるセサミンは、ゴマに多く含まれる栄養素です。ゴマは健康に良い食品として、古くから世界中で重宝されてきましたが、中国ではどのような食品として人々に愛され、どのような効能が知られていたのでしょうか。中国史とセサミンについてご紹介します。
ゴマの原産地は?
現在、ゴマの主要産地とされているのは、インド、ミャンマー、中国の3大産地やタンザニア、スーダンなどのアフリカ諸国です。では、ゴマの原産地というのはどこなのでしょうか?
ゴマの原産地はアフリカ・スーダン東部のサバンナ地帯だと考えられており、アフリカでは現在も30種類ほどの野生種が生育しています。紀元前3000年よりも以前から、ナイル川流域でゴマの栽培が行われていたと考えられています。古代エジプトのパピルス(今でいう紙)にも医薬品として、ゴマの効能についての記述が残っています。
ゴマが中国に入ってきたのは?
アフリカが原産地であったゴマは、紀元前3000年頃にはインドや中国に伝わったとされており、浙江省太湖沿岸にある当時の遺跡から黒ゴマが見つかっています。エジプトから中東、インドを経る陸路をメインルートとしてゴマは中国へ伝来したと考えられています。ゴマを漢字では「胡麻」と書きますが、「胡」は西方の異民族を表す文字であることからも、ゴマが陸路で中国の西方から伝わってきたことが分かりますね。
食用や薬用以外にも、採油用の植物としてゴマは重宝されました。変わった用途としては、ゴマ油を燃やして発生した煤(すす)を、版画の絵の具として用いていたということも分かっています。
漢方薬としてのゴマ
ゴマは漢方医学の生薬としても使われており、中国最古の薬学書「神農本草経」には、不老不死の薬としてゴマが載っています。ゴマは漢方的には、補陰(体液不足を補う)、潤腸(腸を潤し、便通を良くする)、補肝腎(肝臓・腎臓の働きを補う)といった効能があるとされており、虚弱体質、貧血性のめまい、乾燥性の便秘といった症状や病後の回復のために処方されます。
また、ゴマ油には潤腸や肌を潤す効能があり、便秘や腹痛、肌のできもの、あかぎれなどに効果を発揮するほか、軟膏の固さを調節するためにも使われます。
生薬としてゴマが使われている漢方薬には、消風散、紫雲膏などがあります。消風散は湿疹やかゆみを発散させる皮膚病用の漢方薬で、ゴマ以外にもカンゾウ(甘草)やトウキ(当帰)などが含まれています。紫雲膏は、火傷や痔、しもやけ、外傷、皮膚炎などに幅広く効果がある外用薬で、日本で販売されているものには、中国のオリジナル版(潤肌膏)に豚脂が加えられています。
このように、ゴマは生薬として、深く漢方医学を支えてきたのです。
漢方ではありませんが、中国とほぼ同時期にゴマが伝来したインドでも、ゴマは医薬品として使われました。古代インドの医学書である「アーユルヴェーダ」には、薬草をゴマ油で煮て薬効成分を抽出し、体に塗布するという治療法が載っています。エジプト、インド、中国と方法は違いながらもどの地方でも、医薬品としてゴマが用いられていたのは興味深いですね。
セサミンの効能は注目されていた?
ゴマが、中国の歴史において医薬品として用いられていたことは、上でご紹介したとおりですが、ゴマのセサミン由来の効能は注目されていたのでしょうか?
漢方医学におけるゴマの効能は、補陰(体液不足を補う)、潤腸(腸を潤し、便通を良くする)、補肝腎(肝臓・腎臓の働きを補う)といったものです。補陰は、血液や胃液、唾液といった人体を構成する液体「陰」の不足を補うというものです。セサミンには、血中のコレステロール値や中性脂肪値を下げたり、女性ホルモン・エストロゲンの働きをサポートしたりすることで、全身の血行を良くする効能がありますから、補陰はそこから来たと考えられます。
また、セサミンは自律神経の乱れを改善することで、便秘や下痢を治す効能や、肝臓の代謝能力を向上させる効能を持っていますから、潤腸や補肝腎についてもセサミンの効能由来であると言えます。
セサミンという物質が発見される前から、セサミンの持つ様々な効能は知られており、中国の人々の暮らしを支えてきたのですね。
現代中国とセサミン
紀元前3000年頃から中国とゴマの歴史は始まり、食糧や医薬品、油として人々に重宝されてきました。では、現在の中国において、ゴマ文化はどのような形となっているのでしょうか。
ゴマ油は現在も中華料理には欠かせない存在です。中国ではゴマ油は、「芝麻油(ジーマヨウ)」、「麻油(マーヨウ)」、「香油(シアンヨウ)」などの名前で呼ばれ、香ばしい風味を加えるために使われるほか、ラー油の原料にもなります。中華料理で用いるゴマ油は、200℃以上で高温焙煎したゴマから抽出された油であり、日本のゴマ油よりも風味が強いものもあります。
また、練りゴマを使った芝麻醤(チーマージャン、ヅーマージャン)という調味料も人気があります。芝麻醤は、細かくすりつぶした炒りゴマに、ゴマ油などの油や調味料を加えて伸ばしたもので、棒々鶏やしゃぶしゃぶのゴマだれや、坦々麺、冷やし中華などに用いられます。
ゴマを炒りゴマ、すりゴマ、練りゴマ、ゴマ油など様々に加工して、料理やおかしに用いるのは、中国以外には、韓国・日本といった「中華文化圏」であるアジアの一部の国に限られます。それ以外の文化圏では、ゴマをそのままの形で料理に使うことが一般的で、それ以外の形で用いることはあまりありません。
ゴマ畑やゴマの収穫、ゴマの搾油などの風景は、中国農村部の人々にとって馴染み深いものであり、多くの文学作品や民謡などに取り入れられています。
ゴマ油を歌った「芝麻油(ゴマ油)」という民謡が中国西北地方にはあり、この「芝麻油」の歌詞を、毛沢東を称える歌詞に変えた「東方紅」という曲は、中国人ならば誰もが知っているというほど有名な曲です。
中国はインド、チベットと並び、ゴマの三大産地として、ゴマの供給の一角を担っていました。しかし、2014年以降は輸出国から輸入国に一転しており、中国の購買動向が、ゴマ相場に大きく影響するようになりました。
中国の健康食品市場は発展途上にあり、右肩上がりの成長が続いています。今後、セサミン含有サプリメントの流行などによって、中国のゴマ需要がさらに高まることも予想されます。
まとめ
アフリカのサバンナ地方を原産地とするゴマは、陸路でエジプト、アラビア、インドを経て、紀元前3000年ごろに中国に伝わりました。食用、薬用、採油用など様々な用途を持つ植物として重宝されたゴマは、現在の中国でも漢方薬や中華料理の材料として、人々の暮らしに欠かせません。
漢方医学の世界では、ゴマには補陰(体液不足を補う)、潤腸(腸を潤し、便通を良くする)、補肝腎(肝臓・腎臓の働きを補う)といった効能があるとされていますが、検証してみると、それらの効能は皆、セサミンによるものです。中国の人は昔から、ゴマを通じてセサミンの効能に触れてきたのですね。ゴマが用いられている漢方薬として有名なものには、消風散、紫雲膏などがあります。
また、中華料理が発達していく中で、ゴマの調理方法も洗練され、炒りゴマの他に、すりゴマ、練りゴマなど、ゴマを様々に加工して食べる文化も育まれ、中国の影響を色濃く受けた東アジア特有の食文化ともなりました。
インド、ミャンマーと並び、ゴマの三大産地として知られていた中国ですが、2014年以降は、輸出国から輸入国に転じたため、ゴマの国際市場に大きな影響を与えています。中国の健康食品市場は、拡大途上ですから、セサミンサプリメントの流行などによって、中国のゴマ需要がさらに過熱する可能性もあるでしょう。